陽が落ちかけての散歩道、石段の脇に続く生垣からポトンと何かが落ちる音がした。何かの固体の気がして目を凝らすとヤモリだ。
すぐに逃げずに私が階段を降りるのと並行して一緒に動く。止まると一緒に止まる。ヤモリの類いは好きなほうではないが、このヤモリは親しげなので写真を撮ることにした。接写も出来そうだ。正面から視線も合った気がする。
家に帰り、グーグルレンズで調べた。ホウグロヤモリで小笠原諸島や奄美大島など亜熱帯に多く生息している中型の種類らしい。検索していると「ヤモリ物語」というワードが出てきた。そこを訪ねると寺田寅彦の青空文庫にある無料の本。わずか8ページの本だが興味深い。
時は明治時代。寺田寅彦が役人時代に駒込で下宿している頃の日常。夏の雨が降る日は毎年頭痛がするのが常でフロに行くことでその不快さを取る等々と随筆ははじまっている。今で言う気象病か?
明治、大正、昭和初期の生活の様子は風情があり、目に浮かぶようだ。アマゾンで寺田寅彦を検索するとわずか10日前に配信になった「寺田寅彦、電子全集」を見つけた。これは価値がある。しかも値段はワンコインだ。
作品数が多く読み切るには100時間は要するだろう。物理学者でドイツ留学、旅、美術、交友録などトピックスが多岐に渡り興味深い。時々見たこともない漢字が出てくる。それらを推理するのもクイズのようだ。
夕方、目があったヤモリが、ヤモリ物語、そして寺田寅彦を紹介してくれた。