NHKのラジオに古典講読の時間がある。先日、鴨長明の発心集の中から興味深い、ユーモラスな説話を紹介していた。
時代は平安後期から鎌倉時代。長年仏教を信じ修業を積んできた尼さんがいた。終末が近くなり、重い病で湯水も喉に通りにくい状態で病床に伏せていた。あと何日の命という時、隣の庭の橘の実が美味しそうに実っているのが気になる。是非とも死ぬ前に食べたい。家人が隣の僧侶に少し分けて欲しいと頼みに行くと、むげに断られた。
病床の老尼は激怒。たかが2個3個の橘の実も分けてくれないとは。今まで極楽浄土へ行くべく精進してきたが、今となっては生まれ変わって虫になり、あの橘の実を食いつくそう。隣の僧侶を恨みながら、この世を去った。さて、くだんの僧侶は熟して美味しそうな橘の実を食べる。するとその中には1.5センチほどの白い虫がいた。他の実を食べるとそこにも虫が、結局全ての実は虫に食い尽くされていた。毎年同じことが起こり、橘の木は切り倒された。
こんなあら筋だった。
多くのテーマがこの説話に含まれている。単に食べ物の恨みは恐ろしい、だけでない。臨終の介護を経験した人はこの老尼の無念さをより理解できる。小さな親切は惜しまないのが良い、という教訓も強く感じる。